大阪高等裁判所 昭和48年(ネ)1041号 判決 1975年1月23日
控訴人 大塚良夫
控訴人 横井彦一
右両名訴訟代理人弁護士 戸谷茂樹
被控訴人 三芳ハナ
右訴訟代理人弁護士 石山豊太郎
主文
原判決を取消す。
被控訴人の請求は、いずれもこれを棄却する。
訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。
事実
控訴人らは、主文と同旨の判決を求め、被控訴人は「控訴人らの各控訴を棄却する。控訴費用は控訴人らの負担とする。」との判決を求めた。
当事者双方の主張、証拠関係は、次に付加するほか、原判決事実摘示と同一であるから、ここにこれを引用する。
一 控訴人ら
被控訴人の子である訴外三芳哲男は、昭和四四年三月頃、連日のように被控訴人肩書住所附近で賭博場を開張し、被控訴人も右賭博場においてツボ振りをしていたこともあった。控訴人ら両名は、同年二月頃から右賭博場に出入りして賭博をなしている間に、勝負に負け賭金が無くなったとき、哲男が賭金を貸してやるといって被控訴人に電話でその旨を伝え、控訴人らが被控訴人方に行って金員を受領し、これを右賭博場における賭金に使ったのであって、被控訴人は、控訴人らに対する貸金が右賭博場における賭金に使われることを熟知していた。被控訴人が本訴で請求する各貸金なるものは、いずれも右のような趣旨の下になされたもので、不法原因給付であるから、被控訴人はその返還を請求することができないものである。
二 被控訴人
控訴人らの右主張事実を否認する。
被控訴人は、控訴人らから事業資金を貸してほしいと頼まれて貸したものであり、これが賭金に使用されることを知らなかった。控訴人らは、原審において本件貸金が不法原因に基づくものでない旨陳述したのであるから、当審において右のような主張をなすことは、自白の取消というべきであって許されない。
三 証拠関係≪省略≫
理由
被控訴人主張の各金銭消費貸借の成立については、当事者間に争いがない。
≪証拠省略≫によると、控訴人両名は、昭和四三年頃から被控訴人の子の訴外桐生香暢および三芳哲男が胴元となって開張する賭博場に足繁く出入りをし賭博をなしていたこと、右賭博場は被控訴人宅であったこともあるが、多くは被控訴人宅の近くの場所であり、控訴人らが賭博の勝負に負けて賭金が無くなったときには、哲男から被控訴人へ連絡した後に控訴人らが被控訴人方へ行って賭金のための金を借受けたり、又、控訴人らが賭博場へ行く前に被控訴人方に立寄り賭博場の所在を聞くとともに賭金に使用する金を被控訴人から借りていたこともあり、本件各貸金は、いずれも右のようにして控訴人らが借受けたものの一部で、控訴人らは、これを右賭博場で使ったものであることを認めることができる。≪証拠判断省略≫
右事実関係からして、被控訴人としては、かねて、その子らの賭博開帳を幇助し、控訴人らに対する本件の各金員貸与に当っても、これが右賭博場の賭金に使用されることを知っていたというに止まらず、控訴人らの賭博行為を積極的に助長し右賭博場開帳の利をはかろうとする意図を有していたものと推認するに難からず、これは公序良俗に反する事項を目的とする金銭貸借契約に外ならないから、被控訴人が貸与した金員は、不法原因に基づく給付として民法七〇八条により控訴人らに対してその返還を請求し得ないものというべきである。控訴人らの抗弁は理由がある。なお、被控訴人は、控訴人らが原審において本件貸金が不法原因給付でないと陳述しながら、当審において右陳述を撤回して前記抗弁を主張することは自白の取消しであるというが、右不法原因給付に関する主張は控訴人らの抗弁であり、控訴人らがこの抗弁を主張するか否かはその選択に委ねられ、民訴法一三九条に反しない限り控訴人らは右抗弁を随時主張しうるところである。仮に控訴人らが右不法原因給付に関する抗弁を原審において撤回しながら、当審において再度これを主張したものであったとしても、本件訴訟の経過からして控訴人らが故意又は重大な過失によって時機に遅れて主張したものと認めるべきではない。
そうだとすると、被控訴人の本件各請求は、いずれも理由が無いというべきであるから、被控訴人の請求を認容した原判決を取消し、その各請求を棄却し、訴訟費用の負担につき民訴法九六条、八九条を適用し、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 井上三郎 裁判官 石井玄 畑郁夫)